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最高裁判所第三小法廷 昭和25年(あ)608号 判決 1950年12月26日

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人内山弘の上告趣意は、末尾に添えた別紙記載の通りであって、第一審第一回公判調書中の不動文字による記載申「別に争うこと(陳述すること)はありません」というような被告人および弁護人の答弁の部分までが印刷になっていることを指摘して、第一審判決が正当に行われたか否かを疑い、ひいて被告人に対する不利益な供述の強要がありはしなかったか、被告人が基本的人権を保有し得たりや否やを問題にして、違憲の主張をするのである。しかし公判調書の記載は必ずしも立会書記官の自筆であることを要するものではないのであって、不動文字で記載することを禁ずる法規はない。そして公判調書は裁判長および裁判所書記官がこれに署名押印してその記載の正確なことを証明するのであるから(刑訴規則四六条)、不動文字だから不正確だとは言い得ない。ところで本件記録に当って見ても、本件公判調書の記載の正確を疑わせる筋もなくまたそれにつき当事者から異議が申し立てられてもいない(刑訴法五一条)。それゆえ不動文字による公判調書の記載の理由だけで第一審公判手続の正当を疑い被告人の供述が不任意であったかも知れないと主張するわけには行かないのであって、右被告人の供述を任意自由の自白と認めた原審の判断をくつがえすに足りない。要するに論旨は名を憲法違反にかりた手続違背の理由なき主張にほかならず、上告の適法な理由にならない。

また本件は刑訴法四一一条を適用すべきものとも認められない。

よって、同法四〇八条、一八一条一項に従い、主文の通り判決する。

以上は当小法廷裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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